「神のそだち、
どこかゆらくたづぬれば、
こけのしら山、
滝のふもとにあるろう」
高知県の北東部、徳島県との県境に物部村という山村がある。
険しい山々が幾重にも折り重なるようにそびえ、その山肌にへばりつくように小さな集落が点在している。
ここに平安時代から続くとされている民間信仰「いざなぎ流」がある。
私はつい最近NHKのドキュメンタリー番組で初めてその存在を知ることになったのだが、もう半世紀ほど前から注目され、民俗学的な研究がされているらしい。
焼き畑と林業、狩猟をおもな生業として生きてきた人々の生活と密接に繫がっているこの信仰は「太夫」と呼ばれる神官を中心に一年を通して様々な宗教行事が行われる。
たくさんの特色を持った信仰だが、私が最も興味を引いたのは御幣として切りだされる紙の精霊たちだ。
神事の都度に、太夫によって作られるそれは、実に200種類以上にもなるらしい。
つまり自分達の周りに、200を超える神々の存在を感じ取っていることになる。
木の神、川の神、滝の神、山の神、石の神・・・・・・ 険しい山に閉ざされた生活の中で身近に感じ取れる神々は、ユーモラスで繊細で、そして美しい。
東北にも同じような御幣の文化はあるが、こちらの方が造形的にはレベルが高いように思う。
自然の中に無数の神々を感じ取れる感性は、この島国の人々の特色の一つであると思うが、ひらひらと風に舞うこの紙の造形は、他では見る事が出来ない大変興味深いものだ。
「いざなぎ流」 映像
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土佐・物部村・神々のかたち INAX出版 |